環境規制を逆手に取ったテスラの革新的ビジネスモデル
内燃機関車が主流であった20年前、テスラがここまで影響力のある自動車メーカーになることをどの自動車メーカーも予想していなかったと思います。
世界各国の自動車メーカーはこう考えていたかもしれません。
『自動車製造への参入障壁はとても高く、新参者による革新的なビジネスモデルの構築は困難なものだ』
と。
複数あるテスラの革新的なビジネスモデルの中でも、特にテスラの凄さを際立たせているのはCO2排出量のプーリング戦略です。
CO2排出量プーリング戦略を説明する前に、EUのCO2排出量目標について簡単に触れておこうと思います。
EUは自動車メーカーに対し、販売する車の平均CO2排出量に目標値が設定しています。その目標を超えるてしまったら自動車メーカーは多額の罰金を支払わなければなりません。各自動車メーカーはCO2排出量削減しようとあの手この手で頑張っていますが、それでも目標達成が困難な場合は罰金を支払うか、CO2排出量目標を達成しているメーカーから、排出権クレジットを購入しなければなりません。EUのCO2排出権取引の対象となるのは基本的に走行時のCO2排出量です。自動車の環境負荷を評価するなら、製造から廃車までにどれくらいCO2を排出するかを考慮すべきだと思いますが…(それはさておき話でした)。
テスラはEV専業メーカーなのでCO2の排出量はゼロ。つまり、目標達成できなかった自動車メーカーは、テスラから排出権クレジットを購入して自分たちの平均排出量に組み込むことで、グループ全体の平均排出量を下げて罰金を回避できるのです。これこそがテスラのCO2排出量プーリング戦略です。日本の自動車メーカーもテスラから排出権クレジットを購入しています。
テスラは以前赤字になっていた時期もありましたが、排出権クレジットが収益に大きく貢献してその赤字を縮小してきました。近年では排出権クレジットに頼らなくても黒字化を達成しています(2024年1月~3月期に赤字を計上していますが)。CO2排出権クレジットを販売して獲得してきた収益を研究開発や設備に投資をした結果でしょう。
テスラのCO2排出量プーリング戦略は、EUの環境規制を逆手に取った賢いビジネス戦略と言えます。今年(2025年)からさらに規制が厳しくなりますので、排出権クレジットの価値は相対的に高くなります。
因みに今経営状況が悪化しているフォルクスワーゲンはテスラの排出権クレジット購入計画を発表していません。自社でEV(ID.シリーズ)を販売してEUの環境規制目標を達成する予定だったのかもしれませんが、EVが思ったより売れていないので、このままだと15.2億ユーロ(約2,500億円)の罰金を支払わなければならなくなるそうです。現在のVWの業績状況を考慮すると、罰金を支払うにしても排出権クレジットを購入するにしても、かなり痛い出費になるでしょう。
テスラの排出権ビジネスについては、
・制度の本質的な目的の歪曲
・排出権クレジットの売買は実質的な環境保護につながらない
等の意見も少なくありません。
しかし、成功している企業や人に共通していることが多いのは、法律や規制を迅速に理解し、ビジネスチャンスとして捉えていることです。地頭力が高い人にしかなせない技です。
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