ケニアの自動車メーカー、Mobuis Motorsが見た理想と現実

2025年11月11日

今日は、日本ではほとんど知られていないケニアの自動車メーカー、Mobius Motorsについてご紹介します。遠いアフリカの国の話ですが、実はMobius Motorsは、その理想を現実にしようとする過程で、日本が思いもよらない形で大きな影響を与えています


ケニアで唯一自社ブランドを製造している自動車メーカーMobius Motorsは、2011年に設立されました。ケニアのナイロビに組立工場を持っていて、Mobius車の核となるシャシーはMobius Motorsが独自で設計・製造しています。Mobius Motorsの15年にわたる複雑な歴史を時系列にしました。

  • 2009:創業者 Joel Jackson氏(英国出身)が、現地での移動課題、「アフリカのための車」の必要性に着想。

  • 2010:Mobius Motorsを英国で法人として設立。

  • 2011:ケニアで法人登録。「アフリカで、アフリカのために」車両を製造する企業としてスタート。設計はシンプルかつ頑丈、部品は既製品を活用する方針。まずはプロトタイプのMobius 1を発表してPRを行う。

  • 2014:最初の量産モデル Mobius 2 (第1世代)を発表する

  • 2015:Mobius 2の量産開始(限定50台)。翌年に完売する。

  • 2017:創業者 Joel Jackson氏のビジョンが、TED Globalでの講演「アフリカで、アフリカのために作られた車 (A vehicle built in Africa, for Africa)」で表明される。

  • 2018:米国政府機関(当時OPIC、現DFC)から5億ケニアシリングの資金調達。ナイロビに新工場を設立。ナイロビ近郊の生産設備整備とローカル部品サプライチェーン構築に充てられた。

  • 2019:第1世代のフィードバックに基づき、パワステやガラス窓などを備えた改良モデルのMobius 2(第2世代)を発売。

  • 2021:BAIC(北京汽車)との提携に基づき、新型SUVを発表。戦略を大幅に転換。

  • 2024:財政危機のため操業を停止、株主総会で自発的清算を決議。事実上の経営破綻。

  • 2025:中東の投資会社「Silver Box」が Mobius Motors の買収を発表。事業再生へ。新体制(COO: John Kavila)の下で、ナイロビ工場での生産再開が始まる。


Mobius Motorsの企業哲学

Mobius Motorsの創設者であるJoel Jackson氏の企業哲学は、彼がケニアの地方で小規模農家向けのビジネスに関わった際の「信頼できる輸送手段へのアクセスの欠如」という原体験に深く根ざしているようです。この時、Joel Jackson氏は、アフリカの輸送市場が抱える二重の構造的問題を認識しました。

  1. 高価さ: 輸入車が主流であり、平均的な所得水準に対してあまりにも高価。
  2. 耐久性の不足: 欧米・アジア市場向けの車両は、アフリカの劣悪な道路環境(悪路・未舗装路)に耐えうる耐久性を欠いている。

この課題を解決しようと、ジャクソン氏は「アフリカの人が本当に必要とする車を、イチから作り直すこと」を目指し、Mobius Motorsを設立しました。

創業者のビジョンは、「耐久性」「手頃な価格」「機能性」を最重要視して「アフリカで、アフリカのために」設計・製造することにありました。

また、Mobius Motorsは、単なる自動車メーカーではなく、輸送・事業プラットフォームとなることを目指していました。そのビジョンは、車両を販売するだけでなく、地元の起業家がその車両を活用し、公共交通、医療サービス、物品配送などの収益性の高い輸送サービスをコミュニティに提供できるエコシステムを構築することにあったそうです。


1. Mobius 2 (独自設計の時代)

Mobius 2は、創業理念を具現化したモデルで、頑丈で簡素化された車体を目指して設計・製造されました。

  • 第1世代 (2014年): 50台限定生産。パワーステアリングや窓ガラスなどの快適装備を徹底的に排除したミニマリズムを追求し、実用性(積載量625kg)を重視。しかし、市場からはパワステ、ドアロックの欠如等、快適性の不足に対するフィードバックを得る。
  • 第2世代 (2019年): 市場の要求に応え大幅改良。
    • シャシー: アフリカの悪路と高い地上高(330mm)を確保するため、堅牢なスチール製スペースフレームをゼロから独自設計し、耐久性を実現。
    • パワートレイン: コストと信頼性のため、エンジンとトランスミッションは他社(トヨタ/GMの合弁エンジンが示唆される1.8L)から調達し、現地で調整。


Mobius Motors オフィシャルサイトより引用

Mobius 2は、「シャシーは独自設計、パワートレインは調達」というハイブリッド戦略を採用し、Mobiusの「ゼロから設計」の哲学が強く反映されたモデルでした。しかし、理想だけでは食っていけないのがビジネスの厳しいところ。

2. Mobius 3 (戦略転換の時代)

Mobius 2の商業的成功が得られなかったことから、Mobius Motorsは2021年に根本的な戦略転換を行いました。

  • ベース車両の採用: Mobius 3はMobius 2と異なり、ゼロからの独自設計ではなく、中国・北京汽車(BAIC)のBJ40をベースにした現地組立仕様で、右ハンドル化・内装調整などをMobiusが担当しているOEMです。
  • 事業形態の変化: Mobius MotorsはBAICと販売契約を結び、現地で組立(ノックダウン生産)と一部のローカライズを行うアセンブラー(組立工場)へと事業形態を変化させます。

Mobius 3の投入によってMobius Motorsは独自開発メーカーからグローバルメーカーのパートナーへと転換し、現実主義に基づいた生存戦略を選択したことになります。

 


強力なライバルの存在

Mobius Motors 創業者の「耐久性」「手頃な価格」「機能性」を最重要視して「アフリカで、アフリカのために」設計・製造する、と言うビジョンはとても素晴らしいものでした。しかし、Mobius Motorsには圧倒的に強力なライバルが存在します。それは日本の中古車です。第1世代のMobius 2の新車価格と同じ予算で、より快適性、安全性、信頼性の高い日本メーカーの輸入中古車が容易に入手できました。また、消費者はケニア製の車両を買って地元を応援しようという余裕は無く、日々の信頼性や快適性、安全性を優先しました。


日本の中古車は必要悪な存在

  • ケニア政府の輸入中古車対策
    ケニア政府も自国のMobius Motorsに成功してほしい気持ちはあったはずです。ケニア政府は、輸入される中古車に対して製造から8年以内という年式規制を設けました。 環境保護(排ガス規制)と言う表向きの理由もありますが、古い年式の安価な車両の流入を防ぎたい理由もかなり強かったと思います。この規制で超低価格な輸入中古車の流入はある程度防ぐことができましたが、3~7年落ちの高品質な日本の中古車はどんどんケニアに送り込まれます。
  • 捨てられない関税の魅力
    ケニアは、輸入中古車に非常に高い関税、物品税、付加価値税を課しています。ケニア政府にとって、輸入中古車からの税収はとても重要な歳入源。国内産業の保護を優先して中古車輸入を厳しく制限すると、巨額の税収を失うことになります。この税制の存在がMobius Motorsを保護しきれなかった大きな要因と言えるでしょう。また、輸入車中古車はケニアの一般国民の重要かつ安価な輸送手段です。これを完全に禁止してしまったら、国民の移動や物流が衰退するので経済的にも悪影響。政治的な反発を招くリスクもありますね。

我々が日本で乗っていた自動車が、ケニアの自動車メーカーの発展を阻害していると思うと少し複雑な心境になりますが、ケニア国民の移動や物流の役に立っていると言う事実もあります。


好きな車と、暮らそう。

AUTORIESEN 

052-774-6151

TOP


auto@riesen.co.jp

サービス工場Blog
車検、点検、整備のあれこれを毎日更新!
熟練のメカニックの匠の技をご覧になれます。