インド人がシートベルトを嫌がる理由
インドで自動車の本格的な普及が始まったのは、1990年代半ばから2000年代にかけて。その頃のインドの自動車市場では、価格、燃費、手頃なサイズが優先され、安全性は二の次でした。
その頃、インド政府による自動車の安全基準や規制が、欧米や日本と比べて非常に緩く、メーカー側も高コストになる安全装備の積極的に導入を避けていました。インドの消費者自身も安全性よりも、「まずは車を持つ」ということが最優先だったのです。
しかし、自動車が増えると交通事故による死亡者数も増えてしまい、それが大きな課題になります。国民の所得向上と自動車普及の過渡期が中期に入ったこともあり、インド政府はこの課題を解決しようと動き始めます。
それが、インドの自動車産業省によって2023年に導入されたのがBharat NCAP。インドの自動車安全性能評価プログラムです。このプログラムは、市販されている自動車の衝突安全性を1つ星から5つ星までの評価を与え、消費者が安全な車両を選択するための判断材料になります。このNCAPは、日本ではJNCAP、欧州はEuro NCAP等、多くの先進国が採用しています。
Bharat NCAP導入後、インドの自動車業界ニュースでは、
「TATAのALTROZが星5を獲得 」
「マルチ・スズキのINVICTOが星5を獲得 」
「シトロエン C3 エアクロスが星5を獲得 」
のように、販売される新車の安全性を公表。先月末までに24のモデルの衝突試験を行ってきました。一部星4の車種もありましたが、大半が星5を獲得しています。販売台数に直結するので、さすが自動車メーカーも高い星を獲得しようとします。ここで星1や星2だったら売れなくなりますからね。
安全意識が高くなるも、シートベルトを嫌うインド人
インドでBharat NCAPが導入されても依然シートベルトの着用率が低いのは何故でしょうか?
- 着用しないことが普通という風潮
皆がシートベルトを着用しないから、シートベルト着用することが大袈裟だとみなされてしまうようです。単純にシートベルトが窮屈だと感じたり、衣服にシワが付くことを嫌がる人も少なくないそうです。 - シートベルトが危険だと言う誤った認識
インド人にとって、命を守るはずのシートベルトが、逆に命を奪う危険な装備だという誤った認識が広がっているようです。特にインドの山岳地域では、「車両が横転した時に車内に閉じ込められる」、「いつ落ちてくるか分からない岩を確認しづらい」という特有の恐怖があり、それがシートベルトを嫌う理由になっています。
実際に2024年のテフリで発生した事故で、シートベルトをしていた人が死亡し、着用していなかった人は車外に放り出されて生存したという例があったそうです。しかしこれは単発の特殊な例で、確率的・科学的には山間部であろうがどこであろうが、シートベルトを着用した方が命が助かる可能性は圧倒的に高いです。 - ドライバーを信頼していないことになる?
これはドライバー以外のシートベルト着用率の問題ですが、特にタクシーのようなプロのドライバーが運転する車に同乗する人がシートベルト着用することは、「ドライバーの運転技術を信じていない」と言うメッセージになり、運転手は不信感や侮辱だと感じることがあるそうです。 - 広報活動不足
シートベルトの必要性に関する効果的な広報活動や啓発キャンペーンが不足していることも、インドでシートベルトの着用が進まない根本原因の一つとして考えられています。しかし、最近これも変わりつつあります。
ある事故をきっかけに変わったシートベルト着用意識
2022年9月、インドのコングロマリット企業、タタ・サンズの元会長であるサイラス・ミストリー氏が、乗車中に交通事故で亡くなりました。この事故では、サイラス・ミストリー氏が後部座席でシートベルトを着用していなかったことが死亡の主な要因と報じられ、インド社会に大きな衝撃を与えました。
この出来事を機に、シートベルト、特に後部座席の着用に対する考え方が変わり、2025年4月1日以降の新車には後部座席のシートベルト警告が義務化されました。恐らく近い将来、インドでもシートベルト着用が当たり前になると思います(一部地域は除く…)。
日本も昔は…
日本でも昔はシートベルト非着用が当たり前だった時代がありました。
「シートベルトするなんてカッコ悪い」
なんて風潮もありましたね。
シートベルトなしで運転すると、ズボンを履かずに歩いているような気分になる、と言われるように、シートベルトに慣れてしまえば非着用が不安になるものです。
好きな車と、暮らそう。
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