苦戦するEVスタートアップの誤算
内燃機関車の開発には巨額な投資が必要で、技術的な面やサプライチェーンの確立の面でも既存メーカーが圧倒的に優位でした。EVシフトが世界的に加速する中で、
「EVなら行ける!」
と思った起業家たちが、2010年頃から雨後の筍のようにEVスタートアップ企業を誕生させました。
しかし、EVスタートアップ企業が思っていた以上に、EV開発には巨額な投資が必要だったことが後に明らかになります。
最近では米ミシガン州のBollinger Motors(ボリンジャーモーターズ)が、約1億4800万ドル(日本円で約218億円)の資金を費やしたにもかかわらず、わずか約40台の車両しか製造できず、急速に経営が悪化。資金が枯渇したBM社は約50万ドルのクレジットカード債務も不履行になり、管財人の管理下に置かれました。法的な破産はこれからですが、実態としては既に破綻しており、突然新たな投資家が出てこない限り再生は難しいと見込まれます。
スタートアップ企業と聞くと、オフィス内には無料で利用できるカフェテリアやジムがあって、バランスボールが転がっているキラキラなイメージがあります。しかしこれを継続するこという事は本当に難しいのです。
一昔前、次世代の自動車産業を担うと期待され、ネット上で大きな話題を集めたEVスタートアップ。しかし厳しい現実が待っていました。
- Canoo
2025年1月に破産申請を行いました。Walmartからの大型受注を得ていましたが、資金調達や生産体制の確立に苦しみ、さらにCEOの無駄遣いがあって事業継続が困難になりました。 - Arrival
EV業界で非常に注目を集めたスタートアップの一つで、HyundaiやKIAからも投資を受けていました。しかし量産体制の構築が遅れ、資金繰りも悪化。ルーツはイギリスですが、本社はルクセンブルクにあり、2024年5月にルクセンブルクで破産申請しました。このArrivalは一部資産がCanooに買収されますが、前述の通りCanooも破産申請しています。 - Lordstown Motors:
オハイオ州の元GMの工場を取得し、商用のピックアップEVを生産する予定でした。大量の注文が入っていましたが、その注文の多くが実際には購入の見込みがないものだったことが発覚。Foxconnとの投資の話もでていましたが、2023年に破産申請。その後社名を変えて再出発を図っています。 - Proterra
公共交通機関向けの電気バスや商用車向けバッテリー技術で強みを持っていたカリフォルニアを拠点とするスタートアップ。2023年に破産申請後、部門がバラ売りされ違う形で別の企業に引き継がれました。 - Electric Last Mile Solutions (ELMS)
ミシガン州に本社を置き、商用EVの開発を行っていました。しかし経営陣の不正問題(上場前に受け取った株式に関する不適切な取引)などが発覚し、資金調達も滞りました。2022年に破産申請を行いました。 - Fisker Automotive (旧)
スタイリッシュなプラグインハイブリッド車を開発しましたが、品質問題や資金難により経営が行き詰まり2013年に破産。後にFisker Inc.として再建されましたが、こちらも現在経営危機に瀕しています。 - Sono Motors
ドイツのミュンヘンに本拠地を置いていたスタートアップ。ルーフやドアにソーラーパネルを搭載したEVの開発を進めていましたが、予約注文した車両の生産を完了するのに十分な資金を調達できず、2023年に事業継続を断念。 - Bright Automotive
米インディアナ州で、クライスラーやGM、トヨタ、マツダの元従業員チームで設立され、プラグインハイブリッド車を開発を目指すも、資金調達に失敗し2012年に事業は停止。 - Coda Automotive
ロサンゼルスに本拠地を置いていたバッテリー技術に強みを持つスタートアップ。EVのセダンを開発しましたが、販売台数が伸びず2013年に破産。
Rivian、Lucid Motorsはいずれも黒字化を実現していませんが、RivianはVWから巨額投資を受ける予定があり、Lucid Motorsもサウジアラビアの政府系ファンドからの強力な支援があるので、今のところ事業は継続しています。
EVスタートアップが苦戦している理由
多くのEVスタートアップが、何を見誤って頓挫するに至ったのでしょうか。もちろん資金的な問題であることは言うまでもありませんが、その資金計画をも狂わせたのが量産の難しさです。
プロトタイプを数台生産するのと、何万台もの車両を生産するのとでは次元の異なる土台が必要です。さらに、販売後のアフターサービスと部品供給にも大きなコストが発生します。あのテスラも創業当初は資金難や生産の遅れなど、多くの困難に直面してきました。
Salte Autoのように、いくらでも金がありますよって企業は置いといて、かなり厳し目のロードマップを作成しないと自動車の量産はEVであってもできないと言うことですね。
そう考えると既存の自動車メーカーは、長年にわたって自動車産業を支え、高度な技術や複雑なサプライチェーン、大規模な生産体制、世界的な販売やサービスネットワークを築き上げてきました。EVシフトという大きな変革期を迎えている今、改めてその偉大さを認識させられます。
好きな車と、暮らそう。
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