安易にアメリカ工場建設して良いのだろうか

2025年4月27日

トランプ政権の関税政策の影響で、アメリカ国内に工場建設を計画する企業が増えています。

世界各国の自動車メーカーも「我々も!弊社も!」とこの動きに追随しているようです。しかし、関税の影響を最小限に抑えたい気持ちは理解できますが、アメリカに工場を建設することで、かえってコスト増に直面する可能性もあります。かなりリスクの高い挑戦いなりと思っています。

工場建設に伴う主なリスク

  1. 巨額な初期投資
    ・用地買収
    ・工場建設・製造設備導入
    ・人材確保
    ・物流ルートの開拓
    ・環境規制への対応コスト
    ・サプライチェーン・地域社会との関係構築これらすべてが、莫大な初期投資を必要とします。
  2. タイムラグ
    新工場建設を発表しても、すぐに生産できるわけではありません
    通常、2〜3年はかかります。問題は、この2~3年の間に
    関税政策が転換されるリスクがあります。また、中国自動車メーカーによる猛スピードの技術革新も進行するでしょうから、工場稼働時には業界構造自体が一変している可能性もあります。2〜3年後を見据えた計画が求められます。
  3. 労働者確保の困難さ
    皆さんもニュース等の情報でご存知かもしれませんが、iPhoneをアメリカで製造すると50万円になる、と言う話。

ただし、実際には50万円では済まないリスクも十分にあります。また、若年層が抱く製造業に対するイメージも再調査が必要でしょう。

特に深刻な「労働者確保問題」

アメリカに工場を建設しようとしている企業は、時給40ドル〜50ドルの水準で労働者を確保できると見込んでいるかもしれません。

しかし、世界中のメーカーが進出してくるという事は、労働者の争奪戦になるのは避けられないでしょう。

時給が高ければ人が集まる、そんな単純な話ではありません。

例えば、スマートフォン製造工場の作業風景を映像で見たことがありますが

  • 作業着や帽子を着用

  • 長時間にわたる単純反復作業

  • 私語禁止

  • 作業速度を管理される

これを、自由主義・個人主義の強いアメリカ人が受け入れられるのか、疑問が湧きます。

工場での作業にもいろいろ種類があると思いますが、スマートフォンの製造工場の様子を見てみると、これがアメリカ人にできるのだろうか?と言う疑問が湧いてきます。

以下はイメージ画像
電子機器工場の様子

電子機器工場の様子

一昔前のスマートフォン製造工場では、人間性を感じにくい長時間の反復作業によるストレスで、工場労働者の飛び降り自殺が相次ぎました。飛び降り自殺者が相次いだので、工場の窓から飛び降りできないよう企業側が対策をしていたりしていました。さすがにアメリカでは給与水準も高く、労働者環境も異なるのでこんなことにはならないと思いますが、向いていない人にとってはかなり苦痛を伴う作業であることは間違いありません。

工場労働は、アメリカではもともと敬遠されやすい職種。これまでは移民や不法移民が主に担ってきましたが、トランプ政権下では移民規制の強化が進められています。

つまり、アジア諸国の工場で可能だった労働環境をアメリカで再現するのは非常に難しい可能性が高いのです。


ロボット導入は万能解決策ではない

「それならテスラのようにロボット導入で無人化すればいい」と考えるかもしれません。

しかし、注意が必要です。
テスラは、設計と生産を垂直統合しているからこそ大部分の無人化に成功しています。
そんなテスラでも2018年のModel Sの生産が開始された時に完全無人化に失敗し株価が暴落、完全ロボット化はまだ無理だったと述べていました。

つまり、簡単にロボットで解決できるわけではないのです。

特に、精密組立や品質チェックなど、細かな手作業が求められる工程では、依然として人間の手作業が不可欠。

アメリカ工場建設には慎重な判断を

関税リスクを回避しようとアメリカでの工場建設を選ぶ企業は、これらのリスクを総合的に見極めた上で、慎重に判断する必要があると思います。

下手をすれば、巨額投資が水泡に帰すリスクを抱えることになりかねません。


好きな車と、暮らそう。

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