3月4日の国土交通省の発表について
今月4日に国土交通省が
車体整備事業者による事故車修理の適切な価格交渉の促進のための施策
~ 車体整備業界の賃上げ・人材不足解消に向けて ~
を発表しました。
どんな内容かと言いますと
・我が国のクルマ社会を支える自動車整備業界では、整備士の確保・育成が急務
・公正取引委員会の調査で、自動車整備業界は労務費(人件費)転嫁率が最も低い業種
・特に事故車の修理を行う車体整備業では、新技術対応に加え、損害保険会社との価格交渉が問題
やっと目を向けてくれたか…、というのが率直な感想です
添付資料の車体整備事業者による適切な価格交渉を促進するための指針には具体的な内容が記載されていますが背景の冒頭、以下のように記載されている通り、事故の修理等の板金塗装に関する内容になっています。
1.はじめに
(1)背景
自動車の板金塗装修理(以下「車体整備」という。)では
この指針について簡単に要約すると、
- 車体整備事業者が近年の人件費や物価の高騰を価格に転嫁できず、整備士の確保や育成が困難になっている。
- このままでは、人材不足が悪化して車体整備事業者の経営が立ち行かなくなり、その結果日本国内で板金塗装修理サービスが受けられなくなる可能性がある。
- この状況を改善して、持続的な発展が見込める業界を目指しましょう。
こんな内容です。
業界に詳しくない人には分からない事かもしれませんが、現状どんなことが問題になっているのか、その一部を説明します。
修理費用を決める権利はほぼ保険会社にある
事故で自動車ユーザーが保険を利用して車を修理する際に、慣例として
「車体修理事業者」と「損害保険会社」
が直接交渉し、修理価格を協定した上で損害保険会社が整備事業者へ修理代を支払う流れになります。
本来あってはならないことですが、修理事業者と保険会社との力関係によって、提示した見積金額が通る・通らないに影響が出てしまいます。
まだ記憶に新しいビッグモーターの問題がまさにそれで、膨大な数の自動車保険契約を失いたくない保険会社は、ビッグモーターとの密接な関係により相互顧客紹介の構図が生まれました。この馴れ合いが、ゴルフボールやドライバーで車に損傷を加えて修理費を水増しするような不正行為を見過ごす結果につながったのだと思います。
一方、力関係が
保険会社 > 修理事業者
の場合は、当たり前のように修理見積金額を値切ってきます。保険会社が値切った金額を提示してきたので、これ以上の利益圧迫はできないのでこの値引きは無理だ、と粘りに粘って保険屋さんに意見を通そうとすると
「じゃあ今回はこの金額で手を打ちましょう。次はお願いしますね、貸しですよ」
と釘を差された上で、保険会社が値引き額を減らしてくれることがあります。何だ貸しって?
あくまでこれは実際に私が保険会社とやり取りした事がある一例です。勿論、修理見積金額に不適切な点が無いかの確認は絶対に必要だと思っていますが、理由もなく
「ここの工賃を下げてくれ」
って言うのは納得できるものではありません。
この件について国土交通省は
“自社の責任と考えによる見積の作成を取り組むべき事項”
“車体整備事業者が取り組むべき事項車体整備事業者は損害保険会社に見積を委ねるのではなく、自社の責任と判断に基づいて必要な修理作業と見積を作成し、損害保険会社に提示する”
と述べています。
物価・人件費上昇分があまり考慮されていない
塗料等の原材料価格や光熱費、人件費上昇分が適切に価格転嫁できていないことも問題です。
全く考慮されていない、とは言いませんが、追いついていないことは明らかです。この指針には、”R5年の公正取引委員会の調査で自動車整備業界は「労務費の転嫁率が低い受注者(転嫁率 10%未満)」の割合が最も高い業種であった”と書かれています。
この件について国道交通性は
“消費者物価指数のみならず人件費等の上昇も考慮した工賃単価の提案をすべきだ”
と述べています。
タダ働き分が請求できない
保険を使った鈑金塗装の修理代は、保険会社が定める指数に基づいて算出されるケースが多いです。しかし、決められた指数(つまり時間)で作業ができないケースがあります。例えばボディパネルを外そうとしても、ボルトが酷く腐食していて倍の時間がかかってしまった場合、その分の請求しにくい構造がありました。
勿論思ったより早くできた、と言うケースもゼロではありませんが、指数内できないことの方が多いです。
この件について国土交通省は、このような特殊な事情がある場合は
“損害保険会社にその旨を丁寧に説明し、実際に要した作業時間を客観的に示して当該時間に応じた価格を請求すること”
と述べています。
実際にこの指針通りに進めばよいのですが、あくまでも努力目標であり、法的な拘束力はありません。
ただ、こんなことが書いてありました。
損害保険会社の査定担当(アジャスター)や担当拠店に対して合理的な説明を行ったにもかかわらず
「アジャスターや担当拠店には決定権がない」
「地域相場で決まっている」
「他社にもこの価格でお願いしている」
など、不合理な説明により交渉が進まない場合には、国土交通省が設置する窓口に情報提供すること。
おおっ、これは心強い!
と思ったのも束の間、注釈がありました。
当該窓口に寄せられた情報は、国土交通省における施策の参考とする。なお、当該窓口は個別のトラブル処理・調査等に対応するものではなく、また、提供された情報に関する調査又は施策検討の有無、経過、結果等について回答しないことに留意されたい。
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