脱炭素の陰で見落とされる水資源問題
自動車業界では、脱炭素が大きなテーマになっています。しかし自動車産業を取り巻く環境問題はCO2だけではありません。
新車を1台作るのにも、次世代のクリーン燃料で車を走らせるのにも、想像を超える量の水が必要とされています。水資源が不足している今、自動車業界は今まで以上にこの問題と向き合わなければなりません。
1. なぜ自動車製造に水が不可欠なのか?
自動車は金属やプラスチック、電子部品等の集合体。工場のラインでは大量の水が使われています。車1台を製造するのに数千リットルの水が必要と言われています。水が止まると自動車の組み立てラインも、パーツの供給もストップしてしまうのです。
“自動車を製造するのに数千リットの水が必要”、これは自動車メーカーの組み立て工場(最終組み立て・塗装等)での使用水量です。例えば自動車には多くの半導体が使用されていますが、半導体製造には大量に水が必要です。TSMCが熊本に工場を建設したのも、豊富な水資源があることが選ばれた大きな要因と言われています。半導体やバッテリーなど、サプライチェーン全体で使われる水まで含めると、桁違いに水の使用量は膨れ上がります。
2. 燃料・エネルギーと水の関係
車を走らせるエネルギーの脱炭素化を進めようとすると、今度はエネルギーを作る側の水依存という壁にぶち当たります。
-
バイオエタノール燃料の課題
インドではCO2排出を抑えるために、ガソリンにエタノールを20%混ぜたE20燃料が使用されています。このエタノールの原料となるサトウキビやトウモロコシの栽培には莫大な灌漑用水が必要です。インドではエタノール増産によって地下水が枯渇したり、食料問題や水不足を深刻化させるリスクがあるので、E20(20%混合)を撤回し、E10(10%混合)へ戻すべきだと述べている専門家もいるようです。 -
水素とe-fuel(合成燃料): 排ガスを出さない燃料として期待される水素やe-fuelですが、これらも水を電気分解して作るため、大量の精製水を必要とします。
確かに自動車製造や自動車を走らせるためのエネルギー生産には大量の水が必要になりますが、水はどれだけ消費しても地球上から使った分だけ水が消滅せず、循環して存在し続けます。では何が問題なのか?その答えは、必要とされるところにあるべき水が、別の場所に移動することです。
3. 欧州を襲う水不足が自動車産業に与える影響
今月5日に書いたブログの通り、欧州は記録的な熱波と干ばつの影響で、河川の水位が下がり、これが自動車産業に大きな影響を与えています。
今日は8/16ですが、依然として回復しておらず、さらに悪化して記録的な低水位を更新しています。ライン川中流の最大の難所と言われているカウプでは、8/15に水位が6cmまで下がりました。※6cmという数値は水深そのものではなく、観測用の基準点からの高さ(実際の水深は航路の一番深いところで約1.2m)。貨物用の船舶が通れる理想より2メートル近く水位が低い状況です。
ライン川のような欧州の大河川は、日本の川のように雨が降ってすぐに水位が回復するとは限りません。貨物用が通れる位まで水位を回復させるには時間がかかる可能性があります。
ライン川沿いには化学工場や工業港が集中していて、自動車向けの樹脂、塗料、接着剤、断熱材、シート・内装関連材料などが輸送されています。ドイツの自動車工場は夏季休業に入っているため、完成車の生産や部品消費が通常より少なく、現時点では影響が表面化しにくい状況です。自動車工場が通常操業に戻り、部品需要が増えてくると、原料・部品を一斉に輸送する必要が出てくるので自動車メーカーの生産計画や納期へ波及する可能性があります。
ライン川経由での貨物輸送が困難なので、トラック輸送に切り替える案もあります。しかし、ドイツ国内では既に約100,000人トラックドライバーが不足していると言われていて、高齢化や労働時間制限も制約となっているため、簡単にそれができないのが現状。
欧州メーカーにとって、長期的な水不足は単なる環境問題だけではなく、工場が止まる事業継続リスクになっています。
4. 水資源が豊富な日本はこの強みをどう活かせるか?
世界中が水リスクに頭を悩ませる中、日本は水に恵まれた国だと言えます。それ故「水があって当たり前」と考えがちですが、その感覚のままでいると貴重になりつつある水資源を浪費するだけで終わってしまいます。
豊富な水資源があり、かつ水リサイクルや節水技術が高い国としてしっかりアピールできれば、税制優遇のような策に頼ること無く、熊本にTSMCが工場建設したように、海外の優良企業を呼び込むチャンスになるかもしれません。
好きな車と、暮らそう。
AUTORIESEN
052-774-6151
サービス工場Blog
車検、点検、整備のあれこれを毎日更新!
熟練のメカニックの匠の技をご覧頂になれます





