アメリカ自動車市場に見るK字型格差の実態
リビルトタイトル車が正規ディーラーに並ぶ異常事態
アメリカの新車の平均価格が約5万ドル(約785万円)に達する中、多くの消費者が手頃な価格を求めて中古車市場に流れています。この需要増加によって中古車価格も高騰し、正規ディーラーが従来はタブーとされていた元サルベージタイトル車(保険会社が修理費>車両価値と判断し全損扱いした車)を再生したリビルトタイトル車*の販売し始めている、という異常事態が起こっています。
*リビルトタイトル車とは、保険会社が「全損扱い」にした車を修理し、州の検査に合格して公道走行が認められた車。日本の修復歴車に近いが、タイトル(権利書)に永久記録され、保険料高騰、ローン金利が高いなどのデメリットがある。近年は部品高騰で経済的全損になっただけの軽微な車も増えているが、重大事故車・冠水車も含まれるため見極めが重要。
自動車の流通で明らかになるK字型格差
自動車の流通を見れば、アメリカが抱えるK字型格差の正体が手に取るように分かります。K字型格差とは、V字のように皆が貧しくなったり豊かになったりするのではなく、「K」の文字の如く右肩上がりに資産が増える層と、その反対の者が明確に分かれることです。
つまりK字型格差は2極化を表す表現ですが、今までの2極化と違うのは中間層の多くもK字の下向きのベクトルに属する点です。
新車市場からの中間層排除
以前は2万ドル以下で買えたお値打ちモデルの新車が存在しましたが、2026年現在アメリカ市場からほぼ姿を消しました。自動車メーカーの戦略は、パンデミックを境に「薄利多売」から「厚利少売」へとシフト。利益率の高い高級車・SUV・トラックに注力し、安価なセダンやコンパクトカーの生産を大幅に縮小したのです。
その結果、年収15万ドル以上の富裕層が新車購入者の40%以上を占める状況になり、中間層は新車市場から事実上締め出された形に。
中古車を求める客層の変化
アメリカでは中古車であっても購入してそれを維持するのは大変です。(日本でも税金やらで大変ですけど…)
中古車所有のコスト急騰
- 中古車相場も高止まり:新車不足の影響で中古車価格も上昇
- 保険料の急騰:2022年~2024年の間に平均4割以上高くなった
- 修理費の高騰:車のハイテク化により、部品代・工賃が急増
- 高金利:特に信用スコアの低い層はさらに高金利
消費者層のランクダウン現象
中古車価格が高くなったことで、消費者が購入できる車のグレードに大幅なランクダウンが起きています。
| 従来の購入層 | 現在購入せざるを得ない車 |
|---|---|
| 新車を買っていた中間層 | → 中古車へ |
| 今まで中古車を買っていた層 | → 修復歴有り、多走行、旧年式、リビルトタイトル車を検討 |
| 今までリビルトタイトル車を買っていた層 | → 更にリスクの高いジャンク車、車の購入断念 |
一方、K字型格差の富裕層に関しては、以前と変わらず新車、良質中古車、資産価値の高い中古車(クラシックカー等)を購入するか、よりランクアップした買い物をしています。
低所得層を圧迫する自動車コスト
近年、アメリカで低所得層が自動車を購入すると、手取収入の約30%~40%が自動車のローンや維持費に消えると言われています。住居費も手取りの30%~40%を占めるため、車+家だけで収入の60%~70%が消えてしまう計算になりますね。
少しでも車にかかる費用を抑えるために、格安で、いつ壊れても不思議ではないハイリスクなジャンク車を購入するという選択を余儀なくされています。しかしアメリカでは車がなければ通勤も買い物もままならない地域が多く、車を諦めることは生活そのものを諦めることを意味します。
「サルベージタイトル」の意味が変わってきた
ここで重要なのは、サルベージタイトル車の定義が変化しているという点です。
従来のサルベージタイトル車
- 重大な衝突事故で車体が大破
- 洪水による冠水被害
- 火災による深刻な損傷
- 実際に危険な状態の車
現在増えているサルベージタイトル車
- 車体はほぼ無傷
- しかし、ヘッドライトユニット、センサー類、電子モジュールなどの部品価格が異常に高騰
- 修理費が車両価値の60~80%を超えてしまうため、保険会社が「経済的全損」と判定
- 修理すれば通常と変わらず使える車も多い
分かりやすく日本円で説明すると、
車両価値:1,500,000円
破損部品:ヘッドライトユニット + センサー類
修理費見積:1,300,000(車両価値の86%)
→ 保険会社が「全損扱い」
→ サルベージタイトル発行
→ 中古部品で修理し、修理後はリビルトタイトル
→ 実際には問題なく走行可能
つまり、実質的には問題の少ない車が、部品高騰という経済的理由だけでサルベージ扱いになっているのです。この「経済的全損」車は、従来の大破した事故車とは全く異なるリスク水準であり、ディーラーにとって「比較的安全なサルベージ車」として魅力的な在庫となっています。
販売店も売る車が欲しい
困っているのは消費者だけではありません。自動車販売店も売り続けるために在庫を仕入れなければなりません。
ディーラーが直面する三重苦
1. 新車の仕入れ困難
メーカーの「厚利少売」戦略により、ディーラーへの新車供給量が減少。しかも利益率が低く、販売台数を稼げない。
2. 良質な中古車の仕入れ価格高騰
中古車相場の高騰により、仕入れ値が上昇。顧客が買える価格で売ると利益が出ない、または赤字になる。
3. 顧客の流出
価格に敏感な中間層顧客が、Facebook MarketplaceやCraigslistなどの個人売買サイトに流出。ディーラーの最大顧客層を失いつつある。
サルベージ/リビルト車という「苦肉の策」
こうした状況下で、ディーラーは「我が社もリビルト車を販売しよう」と従来タブーとされていた領域に足を踏み入れました。
ディーラーにとってのメリット
- 仕入れコストが40~50%安い
- 販売価格の競争力
- 在庫の確保が容易(オークションで大量に流通)
ただし元サルベージタイトル車には危険な車もあるので基準は設けています
✅ 軽微な損傷で修理済みの車のみ
✅ 部品不足で全損扱いになっただけの車
❌ 重大事故車、冠水車は避ける
しかし、一度サルベージやリビルトのタイトルが付いてしまうと、その履歴は永久に消えません。将来の再販時には価値が30~50%低下し、保険料も高くなる、またはそもそも保険に入れないケースもあります。ディーラーが販売するリビルトタイトル車は、少なくとも保険に入れるとは思いますが…。
K字型格差が生んだ自動車市場の歪み
アメリカの自動車市場は今、富裕層以外の誰もが苦しむ持続不可能な状態にあります。
| 立場 | 問題 | 対応 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 富裕層 | 特になし | 新車・高級車購入 | ✅ 満足 |
| 中間層 | 新車が買えない | 中古車・リビルト車検討 | ⚠️ 妥協 |
| 低所得層 | 中古車も高い | ジャンク車・購入断念 | ❌ 絶望 |
| ディーラー | 在庫不足・顧客流出 | リビルト車の取り扱い開始 | ⚠️ 評判リスク |
| 保険会社 | 修理費高騰で支払い増 | より多くの車を全損扱いに | ⚠️ 顧客不満 |
実は日本でも…
「アメリカは大変だ…」そう思われるかもしれませんが、実は日本でもアメリカ程ではありませんが、ディーラーが取り扱っている中古車の基準が緩くなっています。
国産車にはあまり詳しくないのですが、輸入車正規ディーラーが販売する認定中古車は「新車登録から7年以内、走行距離5万キロ以内」のような基準が設けられていますが、最近中古車不足の影響で、8~10年落ちや8万キロの中古車も販売するようになっています。緩やかでですが、アメリカの状況に近づいている気がします。
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