自動車業界のプロが「10年乗りたい車」を選べない深刻な理由

2025年10月8日

自動車は高額な買い物ですが、メンテナンスをしながら長い期間乗り続ければ、決して高い買い物ではありません。しかし、最近の車は「決して高い買い物ではありません」とは言えなくなっていると言われています。

業界のプロが直面するジレンマ

アメリカの自動車業界で働く役員、エンジニア、デザイナーといった「車のエキスパート」たちを対象に、ある衝撃的な問いが投げかけられました。

問い:「自腹で10年以上保有したい車は何ですか?」

この問いにはいくつかの前提条件があります。

  1. 日常的に使用する現実的な車であること。(スポーツカーなどの特殊な車ではない)
  2. 長期的なメンテナンスコスト(タイヤ、ブレーキ、修理費用など)を自分で全額負担すること。

驚くべきことに、業界の内部にいるプロフェッショナルたちでさえ、この問いに明確に答えられないという現状が判明したのです。

これは、現代の自動車が「長期的な価値」や「所有しやすさ」を失い、「使い捨ての製品」へと変わりつつあるという、自動車業界が抱える根本的な問題を象徴しています。


現代の車が「使い捨て」になる3つの主な原因

 

なぜ、車はこんなにも複雑で、長期保有が難しくなってしまったのでしょうか?主な原因は、政府、メーカー、そして消費者の三者にあると指摘されています。

 

1. 現場を知らない「政府や連合の規制」

 

世界的な燃費、安全、排出ガスに関する規制は、もちろん「排ガスをクリーンにする」「安全性を高める」という善意に基づいています。

しかし、問題は「技術的な理解なし」に規制が作られている点です。

  • 現場との乖離
    「CO2を5%削減せよ」と言うのは簡単ですが、それを実行するには果てしない労力とコストが必要です。
  • 意図せぬ結果
     技術的な困難を無視した規制が、車を不必要に複雑化させ、最終的に高価にしています。

政府や連合(EU等)が、自動車メーカーの現場を知らない状況で規制を厳しくしているのです。

2. コストを無視する「自動車メーカー」

 

自動車メーカーは、政府の厳しい規制(ターボチャージャーやハイブリッドシステムなど、より多くの電子機器が必要)を守ることに専念するあまり、他の重要な要素を考慮する余裕がなくなっています。

  • 長期所有コストの無視
    規制をクリアするための複雑な設計に注力し、長期的な所有コストや修理のしやすさを軽視しています。
  • 驚愕の裏話
    あるエンジニアが、車の性能を上げるために採用したタイヤが、交換時に驚くほど高額だという事実を知らなかったというエピソードは、メーカーが「作る側」の論理に偏っていることを示しています。

3. 「総所有コスト」を考えない消費者

 

そして、私たち消費者の行動もこの問題の一因です。

  • 知識不足
    多くの消費者が、車の仕組みや保証期間後のメンテナンス費用を理解しないまま購入しています。
  • 短期的な魅力
    最新のハイテク装備などに魅力を感じて購入し、交換タイヤの価格や修理の難しさといった長期的なコストを深く考えないケースが多い。

長期保有を阻む「技術とインフラ」の深刻な問題

 

車の設計が複雑化するにつれて、整備や修理に関する深刻な問題も表面化しています。

 

1. 深刻な「整備士不足」

 

車が複雑になりすぎた結果、電子部品を多用した新しい車の修理に対応できる整備士が世界的に不足しています。これは少子高齢化の日本だけでなく、アメリカでも大きな問題です。

  • 修理工場の負担
    複雑な車を修理するには、特殊な高価な工具や電子機器が必要です。個人の修理工場はそれらを導入する必要に迫られ、結果的に修理代が高額になっています。特にEVは修理が困難と言われています。
  • 部品供給の問題
    昔の車と違い、複雑な電子部品や専用パーツは、メーカーの供給が終了すると社外部品で代替することが困難です。10年後の修理部品の調達が大きな課題となっています。

2. 信頼を失う「ソフトウェアとテクノロジー」

 

現代の車は「走るコンピューター」です。しかし、そのソフトウェアに対する信頼は揺らいでいます。

自動車メーカーは、不具合があれば「後でアップデートで修正する」というIT業界の悪しき慣習を取り入れ始めました。

しかし、IT大手ですら5年以上の長期的なOSサポートに苦労しています。それよりもはるかに長い期間(10年以上)のサポートが求められる自動車メーカーに、「果たしてそれが可能なのか?」という強い疑問が残ります。


結論:新車は「高価で使い捨ての製品」になりつつある

 

現在、アメリカの新車販売価格は平均5万ドル(約780万円)に迫っています。

そして、メーカーは長期的な責任を負うことを避けるため、特定のEVのうように複雑な構造の車両をリース扱いにするケースが多くなっています。

環境対策のために導入された技術が、結果として「修理することが困難で、所有するリスクが高すぎる使い捨ての製品」を生み出し、消費者に重い負担を強いているという、何とも皮肉な結果を導きつつあります。私たち消費者は、ハイテクな機能だけでなく、その車の「総所有コスト」についてもっと深く学ぶべきだと専門家は警告しています。

全ての車がこの条件に当てはまるわけではありません。勿論、総所有コストなんて気にせず、「好きな車に乗りたいんだ」と言う人は、本当に欲しい車を買えば良いことは言うまでもありません。専門家が言いたいことは、「趣味の領域ではない、一般の大衆車市場が抱える根本的な問題」です。つまり普通の車が長期的に所有するにはあまりにも複雑になりすぎている、という点への警鐘。特定の車種を批判しているのではなく、自動車業界全体が持続不可能な方向に向かっていることを指摘し、これに関するリスクは最終的に消費者が負うことになると言いたいのだと思います。


好きな車と、暮らそう。
AUTORIESEN
052-774-6151
auto@riesen.co.jp

サービス工場Blog
車検、点検、整備のあれこれを毎日更新!
熟練のメカニックの匠の技をご覧頂になれます。