インドを揺るがすE20燃料騒動

2025年8月31日

今、インドで自動車に関する大きな議論が巻き起こっています。議論になっているのはガソリンに20%のエタノールを混合したE20と呼ばれる燃料です。

自動車市場規模が世界3位のインドでは、石油輸入依存度の高さとCO₂排出を抑えるためにE20の導入を進めました。エタノール混合燃料で有名な国はブラジル。ブラジルでは27%エタノールのE27や、エタノール約96%のE100燃料が流通しています。

ブラジルのバイオエタノール燃料には約50年の歴史があります。1973年のオイルショックを契機に、1975年にブラジル政府はサトウキビ由来エタノールを戦略的に普及させるべく「プロアルコール計画(Proálcool/Programa Nacional do Álcool)」を立ち上げました。当初はガソリン代替を目指して専用車が投入されましたが、2000年代にはガソリンとエタノールを自由に選べるフレックス燃料車が普及。現在はE27ガソリンが標準燃料で、E100も広く利用できる体制が整っています。


E20燃料のメリット

  1. 脱炭素、環境負荷低減
    E20は従来のガソリンよりもCO2の排出が少ない
  2. 石油輸入依存の低減
    インドは石油輸入依存度が88%と高い国です。ガソリンの原料となる原油輸入量を減らせるため、石油に依存している国にとって、エネルギー自給率を高めることになります。因みに日本の石油輸入依存度はほぼ100%。
  3. 農業の振興
    サトウキビやトウモロコシなど、農作物の余剰分をエタノールの原料として有効活用できるので、農家の収入向上や農業の活性化が期待できます。

日本は石油輸入依存度がほぼ100%とかなり高いのですが、インドやブラジルのようにE20を普及させる…、とは行きません。日本ではハイブリッド車が普及しているので、E20の必要性は相対的に低くなっています。また、農業資源も乏しいので、エタノール生産のために農作物を大量消費するとなったら、国民の強い反発を招くことは明らか。


日本でE20が普及しないなんて残念だ…、と思うのは軽率。インドでE20燃料導入が大きな議論になっているのは、E20燃料にもデメリットがあるからです。

E20燃料のデメリット

  1. 燃費低下
    今まで入れていたガソリンからE20に切り替えてから、多くの所有者が燃費の悪化を報告。一般的にE20は数パーセントの燃費低下は見られますが、30%以上も低下したと言う声も。エタノールはガソリンよりエネルギー密度が低くなるので、これはやむを得ない?
  2. 車両への悪影響
    バイオエタノール対応車両でなくても、E20で走ることは可能です。しかし、特に古い車は燃料系のゴムや樹脂パーツの劣化が進みやすくなります。他にもエンジン始動性が悪くなったり、吸湿性による腐食リスク等、特に旧車はトラブルが増える可能性があります。
  3. 農業への影響
    E20はサトウキビやトウモロコシを使ってエタノールを生産するため、食料と燃料の資源が競合する可能性があります。ただし、サトウキビ資源が豊富なブラジルに関しては、それがメリットになります。

インド政府は、E20のデメリットについて、わずかに燃費が悪くなる。古い車両のゴム部品やガスケットの交換が必要であってもそれは簡単なプロセスだと説明しています。


なぜインドでE20騒動が起こったか?

インドでE20騒動が起こった理由は、上で説明したデメリットをもろに受けるからです。

一番の問題は、選択肢の喪失です。

「E20が嫌なら従来のガソリンを入れれば良い」

と言う選択肢がないので、E20を強制された形。インドでは以前からE20導入推進の動きはあって、政府は2030年を目標にE20に切り替えを進める予定でした。しかし、モディ政権はこれを2025年に前倒しして、今年の夏には全国約9万か所の給油所のほとんどが E20に一本化され、従来ガソリンを給油できるところはほぼ姿を消しました。インドで走っている多くの車両は E20に準拠していないので、「私達の車は大丈夫なの?」と不安になっています。日本でもこんなことされたら皆さん怒りたくなりますよね?

一方、ブラジルは数十年かけてユーザーに選択肢を残しながら段階的にバイオエタノール燃料を普及させています。

また、E20を使用して問題がないかの自動車メーカーの対応もバラバラでした。

  • TATA
    2023年以降の主力最新モデルに関してはE20対応と明記。
  • マヒンドラ
    マニュアルやステッカーに「E5/E10まではOK」と明記。
  • マルチ・スズキ
    2023年4月以降のほぼ全モデルがE20対応済み。
  • トヨタ
    2023年以降はE20規格にアップグレード。燃費に多少の変動はある。
  • ルノー
    「推奨できない」と回答するも 批判を受け「問題ない」に修正。
  • ホンダ
    ホンダは2009年以降、インドで製造された全ての車両がE20対応。

ホンダはE20対応がかなり早かったですね。多くのメーカーはE20対応が2023年~になっていて、それ以前のモデルは未評価のようです。

ルノーの対応はSNSで以下のように騒動になりました。

  1. 事の発端
    あるルノー車のオーナーが、2022年モデルの自分のルノー車がE20燃料に対応しているかメーカーに問い合わせる。
  2. ルノーの初回の回答:
    ルノーは「E20はテストしていないので使わないでください」という回答メールを送る。
  3. SNSで炎上
    オーナーがそのメールをSNSに投稿すると、「メーカーが推奨しない燃料を政府が強制している」と大きな批判が巻き起こり、またたく間に拡散。
  4. ルノーの立場変更
    世論の猛反発を受け、ルノーは慌てて「政府のテスト結果に基づけば問題ない」と声明を修正。

政府、自動車メーカー、消費者の間で情報が食い違っていることが、不安を招くことにつながったのだと思います。

政府は少しだけ燃費が悪くなると述べていましたが、VW Ventoの所有者が10km/lの燃費が6km/lまで落ちたとXに投稿。

燃費が悪くなるってことは燃料代の出費が増えますし、給油する手間も増えることになりますよね。


また、農業への影響と言うエタノールのデメリットも懸念されています。インドは労働人口の約半数が農業に従事している農業大国です。

「農業大国でも影響が出るの?」

と思われるかもしれませんが、ある問題点が指摘されています。確かにインドは農作物の生産量は多いのですが、その偏りが起こることを懸念しているのです。近年のインドでは食用油の需要がどんどん高くなっていますが、食用油の生産が追いついておらず、輸入に大きく頼っている状況。インドは今、世界最大の食用油輸入国。

そんなインドでは食用油の原料である落花生や大豆、菜種等からサトウキビやトウモロコシにシフトする農家が増えると言われています。


インド政府、公益訴訟される

E20以外の選択肢を奪ったことは、多くの車両所有者の権利を侵害した。E20燃料について国民に十分な情報が提供しなかったことは消費者保護法に違反しているとして、インド最高裁判所は、9/1からインド政府が全国でE20の販売を強制した政策をめぐる公益訴訟を審理するそうです。

司法の場で問われることになりそうですが、もしかしたら従来のガソリンが復活する可能性もあるのかも?


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