インドは交通戦争真っ只中

2026年8月1日

日本には交通戦争と言う黒歴史がありました。日本の交通死亡事故が激増したのは、モータリゼーション(自動車の大衆化)が急速に進んだ時代。

最も交通事故の死者数が多かったのは昭和45年の16,765人。その当時と比べれば近年の交通死亡事故件数はかなり減りました。2025年の全国の交通事故による死者数は2,547人。統計が残る1948年以降で最も少ない数字です。

インドは交通戦争真っ只中

急速に自動車が普及しているインドは、まさに交通戦争真っ只中で2025年の交通事故による死者数は18万3,382人。

1年で鎌倉市の人口以上
1日当たり約502人
1時間あたり約21人

が交通事故で亡くなっている計算になります。

内容が異なるインドと日本の交通戦争

日本の交通戦争は、乗用車の普及に歩道やガードレールの設置が追いつかず、車対歩行者の接触事故が多発しました。当時の車両の衝突安全性も低くABSやエアバッグもありませんでした。

一方、現在のインドの車はABSやエアバッグを備え、衝突安全性能も昭和の日本車とは比べものにならないほど進化しています。にもかかわらず、これほどの被害が出ているインド特有の4つの問題が存在します。

1. 被害者の過半数が「車に乗っていない」

車自体の安全技術が進化して「車の中にいる人」は守られても、インドの事故被害者の多くは車に乗っていない人だと言われています。

  • 二輪車・歩行者・自転車の被害が圧倒的多数を占めます。

  • インドでは今でも庶民の足として二輪車が多く利用されていますが、ヘルメットの未着用や3人乗り・4人乗り(ファミリーライド)が多く、車両側の安全機能が届かない層が被害に遭っています。

2. 極端な速度差

インドの道路には乗用車だけではなく、オートリキシャ(三輪車)や二輪車に加え、手押し車、牛や人が道路に混在しています。インドの高速道路や幹線道路では、高価格帯の大型車が120km/h以上で飛ばす横を、トラクターやオートリキシャが低速で走っています。

交通工学や交通心理学において、絶対的な速度よりも相対速度(周りの車流との速度差)の方が交通事故リスクを跳ね上げると言われています。

全員が100km/hで流れる道路よりも、20km/h、40km/h、80km/hで走りる車両が入り乱れている方が事故リスクが高くなります。

3. 救命率(医療アクセス)の差

交通戦争と呼ばれていた頃の日本と現代のインドで最も決定的な違いの一つが事故後の救命環境です。日本は国土が狭く、高度経済成長とともに全国に消防・救急網と救急指定病院が急速に整備されました。インドは都市部と地方部の差が大きいと思いますが、特に地方では救急車の到着が遅かったり、搬送先の病院で高度な外傷治療が受けられなかったりと、助かるはずの命が現場や搬送中に失われてしまうのです。

生産年齢人口に集中するインドの交通死亡事故

インドの交通死亡事故の統計で重いのは、

  • 死者の66%以上が18~45歳
  • 死者の83%以上が18~60歳

という、生産年齢人口に集中していることです。

交通事故による社会・経済的損失はインドのGDPの約3%に達すると試算されていて、インドのGDP規模から計算すると、年間でおよそ10兆ルピー(約17兆円)規模の損失に相当します。

交通死亡事故後のアフターケアが未熟

インドの多くの家庭では、一家の大黒柱が交通事故で死亡したり重度の障害を負うと、その家族全体が貧困層へと転落します。

インドでは保険未加入車両が非常に多く、どれほど加害者に100%責任があっても、相手が無保険で個人の資質もない場合、賠償金は1ルピーも回収できません。また、ひき逃げが多いことも大きな社会問題になっています。

日本も交通戦争と言われていた時代から長い年月をかけて、交通死亡事故を減らしてきました。恐らくインドは交通システムそのものが多様で複雑なので、日本以上に交通死亡事故を減らすまで時間がかかると思います。


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