不正の温床になっていたフランスの車両登録システム

2026年9月29日

行政のデジタル化(DX)が進むと生活は便利になりますが、悪い人がいるもので、その仕組みの隙を突いた犯罪が出てきます。

いまフランスの自動車業界では、便利なオンラインシステム「SIV」をめぐって不正・トラブルが多発しています。

1. フランスの車両登録システム「SIV」とは?

SIV(Système d’Immatriculation des Véhicules)は、フランスで2009年に導入された全国統一の車両登録システム。

それ以前の旧システムと以下の点が大きく異なります。

  • 1台に1つのナンバー(終身ナンバー)
    AA-123-AAのような形式で、車の最初の購入から廃車まで同じナンバープレートを使い続けます。なので、引っ越しや名義変更を行っても変わりません。

  • オンライン&民間委託による利便性
    市民がわざわざ行政機関の窓口に行かなくても済むよう、政府から認可を受けた自動車整備工場や自動車販売店、ディーラーがSIVに直接アクセスし、オンラインで売買・名義変更の手続きを代行できるようになりました。

ユーザーにとっても業者にとっても非常に便利な行政DXの成功例に見えたSIVですが、近年その脆弱性を突いた悪質行為が深刻化することになります。

2. 便利さの裏で多発する「SIVの悪用・不正行為」

2017年に行政の完全オンライン化が進むと、SIVを悪用した犯罪や不正行為が横行するようになりました。フランス会計検査院の報告によりますと、約100万台の車両が不正に登録され、国家・地方税の脱税被害は5億5,000万ユーロ(日本円で約980億円)に上ると試算されています。

主な悪用例は…

① 架空の整備工場(ペーパーカンパニー)による不正登録

犯罪組織が実体のない架空の整備工場を設立してSIVのアクセス権を取得。環境ペナルティ(高額な排出ガス税)を誤魔化したり、盗難車等の書類を偽造して合法的な車のように見せかけて再登録・転売するケースが相次ぎました。

② ハッキング・アカウント乗っ取り

実在する真面目な整備工場のログイン情報がフィッシング詐欺などで盗まれ、犯罪グループらによって勝手に大量の不正手続きが行われる事件が発生。被害に遭った整備工場は、身に覚えのない巨額の税金や手数料の請求が届いて初めて被害に気がつきます。

③ 偽装ナンバープレート発行

実在する「誰かと同じ車種・同色の車」のナンバーを偽造して走行する犯罪です。SIV上のデータが不正に利用されることで、簡単に標的のナンバーが割り出されてしまうようになりました。 つまり、本来1つしか存在しないナンバーが複数存在することになります。同じナンバーを偽装された人は、身に覚えのないスピード違反や駐車違反の罰金通知届くという冤罪トラブルが全土で頻発しました。

3. 政府の対策:アクセス権の「厳格化」

このような大規模な不正やサイバー攻撃を止めるため、フランス政府は2026年夏の省令により、SIVへのアクセス条件を極めて厳しく変更し、10月1日からの施行を決定しました。

そのアクセス維持・取得厳格化の条件は主に以下の2点

  1. 年間200件以上の登録・取引実績があること

  2. 3年以上の事業活動実績(創業実績)があること

「取引実績が少なく、管理の甘い小規模事業者やペーパーカンパニーを締め出すことで、システムの安全性を確保する」という目的で導入された措置です。

4. 厳格化によって地方の整備工場が経営危機に?

不正防止という目的で導入された厳格化された新ルールですが、今度は真面目に営業している地方の中小整備工場や中古車店にしわ寄せが直撃することになります。

フランス全国自動車連盟(FNA)の調査によると、深刻な現場の状況が浮かび上がってきました。

  • 新基準「年間200件」は高すぎる壁
    FNA(フランス全国自動車連盟)加盟業者のうち、調査に回答した事業者の約78%が年間取引200件未満なので、この新基準をクリアできません。特に農村部や過疎地では8割以上が基準以下。

  • 地域社会への打撃
    地方の小さな整備工場にとって、車の販売や名義変更の代行は地域住民への大切なサービス(地域密着型サービス)です。彼らがSIVから締め出されると、住民は遠くの大手ディーラーまで行かなければ手続きができなくなります。

業界団体(FNA)は「不正対策は必要だが、基準が一律すぎて真面目に商いをいている地方の事業者を殺してしまう」として、基準を見直しうるよう政府に強い要請をだしているそうです。

日本は不正が難しい?

日本は印鑑証明書等の公的個人認証が厳格で、車検とデータの連動、ナンバープレートの封印もありますから、不正は難しいと思います。それでも犯罪者はナンバープレートを盗んで変造しますから、ゼロではありません。因みにナンバープレートの数字に3や8が入っていると、盗まれるリスクが高くなると聞いたことがあります。3→8、8→3への変造が他の数字より容易だからです。


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