中国車の脅威の評価が甘かったEU

2026年9月28日

EUは当初、中国製EVの流入を関税と法規制で制御できると考えていました。ところが実際のデータを追うと、その想定は甘かったと言わざるを得ない状況になっています。

関税は「効いていない」というデータ

EUは2024年10月、中国製EV(BEV)に対して最大35%の相殺関税を、既存の10%の基本関税に上乗せする形で確定させました。その狙いは明確で、安価な中国製EVの流入を抑え、欧州の産業基盤守るためです。

しかし発動から1年が経過した段階での検証結果は、この狙いとは正反対になりました。欧州経済政策研究センター(CEPR)が発表した分析によりますと、関税は価格・輸入台数・競争構造のいずれにも目立った効果が出ていません。関税導入前に一部研究機関が予測していた「大幅な価格上昇」「EUメーカーへのシェア回帰」「輸入の大幅減少」というシナリオは、いずれも実現しなかったことになります。

数字で見るとさらに露骨で、35%の追加関税にもかかわらず、中国車の欧州向け販売は2024年から2025年にかけてほぼ倍増。2025年の最初の9カ月だけで50万台以上の中国製モデルが売れたという報道もあります。政策立案者が「関税でコントロールできる」と考えていた前提そのものが、覆されつつあります。

抜け道としてのPHEV

この関税の実効性が乏しい理由の一つは、中国自動車メーカーの関税迂回策にあります。EUの追加関税はバッテリーEV(BEV)のみを対象としていて、プラグインハイブリッド(PHEV)は対象外だったのです。中国メーカーはこの構造的な穴を突く形でPHEVの販売を急拡大、2026年8月には中国ブランドが欧州新車販売の12%を占めるまでになりまいた。また、中東情勢等でガソリン・ディーゼル価格の上昇も追い風となり、中国メーカー車がどんどん流れ込む形に。

EUは当初、BYDのDM-i等のPHEVを「対欧州輸出の脅威」としては見ていませんでした。輸出実績が薄く、EV(BEV)しか調査対象にも入れなかったのでしょう。しかし中国メーカーはその失策を見逃しませんでした。国内で既に確立していたPHEV技術と量産ラインを、関税という価格差が生まれた瞬間に欧州向けへ大量に流し、EUが気づいた時には輸入統計上の脅威になっていたのです。すぐにでも中国メーカーのPHEVに追加関税を課したいところでしょうが、EUの関税は行政の一存では決められず、WTOルールに沿った正式な貿易救済手続きを経る必要があるので、それはできません。

コスト構造という土台の差

中国車の価格競争力が圧倒的に強い背景には、垂直統合による構造的なコスト優位があります。バッテリー・半導体・ソフトウェアの内製化を進める中国メーカーは、欧州の伝統的メーカーが製造するコストを大きく下回る水準で自動車の生産できます。

スイスの金融大手「UBS銀行」が2023年に行ったBYD Sealの分解調査で、「欧州のメーカーが現在の構造のままでは、どう足掻いてもこのコスト水準に対抗して同等のEVを作ることは不可能に近い」と述べています。

あまりにも早い中国メーカーの動き

関税を回避するための中国メーカーの動きが予想以上に早く、EU側は先回りして対策を打つことが困難な状況になっています。先程のPHEVの件もしかり、EU内での現地生産もしかり。

伝統的な自動車メーカーは、自動や生産の構造を大きく変えることが困難な中、中国メーカーはどんどん新たな攻撃をしかけています。特にドイツメーカーは労働組合(IGメタル)の存在が強いのでより困難。

見落とされがちな「川上」の脅威

関税や現地生産といった「川下」の競争構造以上に対策が困難で見過ごされがちなのが、原材料・部材サプライチェーンといった「川上」の脅威。世界の車載電池市場は中国のCATLとBYDだけで過半のシェアを握っています。保護政策も度が過ぎると中国はレアアースやネオジム(高性能磁石)の輸出規制を対関税への報復カードとしてチラつかせるでしょうから、現時点では中国メーカーが優位なポジションにいます。。

 


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